混合診療

混合診療班 発表まとめ

井口・今井・佐藤・土屋・星合

【1】混合診療とは

混合診療とは、保険診療と自由診療とを併用した診療のことをいいます。保険診療とは、公的医療保険制度が適用される診療のことで、患者は、診療費の自己負担分を一部(3割)で済ませることが出来ます。それに対して自由診療とは、公的医療保険制度が適用されない保険外診療のことをいいます。

 

現在、日本では混合診療は原則的に禁止されており、患者が保険外診療を受診すると、それが実質的には診療の一部であってもすべてが保険外診療の扱いとなり、患者の医療費は全額自己負担となります。例えば、病気の診療に100万円分の保険診療と20万円分の自由診療が存在するとします。保険診療だけを行うのならば、3割の自己負担で30万円を支払うことになります。保険診療に加えて自由診療を行うと、現在の仕組みであると、患者は自由診療を行ったことで保険の適用から除外され、100万円の保険診療分全額と自由診療分の20万円、合計120万円を自ら負担することになります。

 

現在混合診療が禁止されているには、①患者の収入によって受ける診療に差が出る、②安全な薬品や治療の提供が保障されない懸念がある、③医療機関との情報の非対称性によって患者側に不当な負担が生じるおそれがある、④保険財源の限界、といった理由が挙げられています。最高裁判所においても、2011年に、「混合診療の禁止は保険医療の安全性や患者の負担防止を図るために有効で、混合診療での全額自己負担は妥当」とされています。

 

しかし近年では、混合診療を解禁するべきでは、という動きもみられます。混合診療の解禁がなされると、保険診療と自由診療を併用した場合においても、保険診療分には保険適用がなされるということになります。先ほどの例を使うと、患者は保険適用がなされた保険診療分の30万円と自由診療分の20万円、合計50万円を自ら負担することになります。

 

混合診療解禁を推進するのには、①混合診療を認めることで広く最新の治療を受けられる、②保険料を負担しているにも関わらず保険診療部分においても保険が適用されないというのは不平等、③患者の多様なニーズに応えやすくなる、④個々の患者に合った治療を行うことができる、といった理由が挙げられています。

 

【2】混合診療の判例

現在禁止されている混合診療が解禁された場合、憲法的にどのような問題が発生するのかということについて、実際の判例を通して理解してもらおうと考えました。扱ったのは、原告ががん治療のため単独であれば保険診療に該当する治療と高度先進医療であり自由診療に該当する治療を併用していましたが、保険医療機関から厚生労働省の「混合診療保険給付外の原則」に従い治療の中止を告げられたという事例です。これに対し、原告は「混合診療を受けた場合であっても、保険診療に相当する部分については保険が適用されるべきだ」と主張し、訴訟を提起しました。原告の主張の根拠は大きく2つありました。1つは「明文規定として、混合診療に対しては、保険診療相当部分についても保険給付を行わないという旨の文言が存在しない。」ということ、2つは「健康保険法86条を反対解釈して、評価療養・選定療法以外の自由診療を含む混合診療には保険適用を行わないとする合理的な理由がない。」ということです。この裁判は、混合診療保険給付外の原則が、健康保険法ないし憲法141項、13条及び25条に違反するとして、原告が提起したわけですが、最高裁は原告の上告を棄却しました。健康保険により提供する医療の範囲を合理的に制限することはやむを得ず、「混合診療保険給付外の原則」を内容とする法の解釈は、不合理な差別を来すとも、患者の治療選択の自由を不当に侵害するとも言えず、また、社会保障制度の一環として立法された健康保険制度の保険給付のあり方として著しく合理性を欠くとも言えないため、憲法141項、13条及び25条に違反するものではないとしました。今回は、判旨から①保険診療の安全性と有効性、②患者の負担の防止、③医療の公平性という3つの論点を抽出し、重点的に3つ目の医療の公平性という論点について、国民皆保険制度の意義・価値などを考えていきながら議論してもらいました。

 

【3】現在の日本の社会保障制度

 では、そもそも現在の日本の医療制度は一体どのようになっているのでしょうか。

 現在の日本の社会保障制度は「国民皆保険」と呼ばれている、すべての国民をなんらかの医療保険に加入させる制度となっています。目的として、国民が負担能力に関係なく適切な医療を受けられるよう、社会保障として必要充分な医療は保険診療として確保することが挙げられています。国民皆保険制度があることで、誰もが必要なときに必要な医療を受けられる環境を作り、平等なアクセスを保障することができるのです。このような状況の中、混合診療が導入されれば、従来保険外診療となっていたものにも保険が適用されるため、高額な医療費のために治療を断念してきた人を救うことができる可能性も出てきます。しかし、ここで問題として考えられるのは、国民皆保険制度がある日本で混合診療を解禁することは、国民皆保険が目指してきた国民全員が同じ病気にかかったならば、同じ水準の治療を受けることができるというシステムを崩壊させることになるのではないかとも考えられるため、混合診療は国民皆保険制度の趣旨に照らして妥当なのかどうか、議論してもらいました。

 

【4】感想

日常生活の中で、混合診療を身近なものとして意識することが今まで一切なかったので、今回のゼミ発表の準備はゼロからのスタートであり、非常に苦労しました。ただ、調べていく中で、混合診療を解禁することは決して良い事ばかりではなく、患者に対する安全な医療の提供を考えたときにマイナスの側面もあるという事を知ることができました。仮に将来、日本で混合診療が解禁された場合、患者自身が自らの受ける診療行為の詳細について熟知し、決して医師に任せきりになることなく主体的に医療に臨む姿勢が、私たち一人一人に求められてくると感じました。

また、4年にとって最後の発表ということでしたが、色々あってなんとまさかの1週の発表となりました。2014年最後の発表ということでゼミ後の忘年会を楽しみに頑張りました。テーマも明確に決まっていない中、1週でゼミ生に議論をしてもらうだけの知識をつけてもらうにはどうしたらいいのか、発表班が考えている内容を誘導せずに考えてもらうにはどう質問を作れば良いのか、従来のアンケート方式からどうしたら脱却できるのか、色々考えましたが、結局改善をすることはできませんでした。今回の発表の成果としては、混合診療の概要や問題点について知ってもらう程度に留まってしまいましたが、このような成果の少ない発表を反面教師にして、3年生には新しいゼミのメンバーとともに有意義な1時間半を作り上げていってほしいです。4年生として無力であり、3年生へ何も残せなかったことに申し訳なさと悔しさが残りますが、このメンバーでゼミを作って行くことができて本当に楽しく、いい経験だったと思っています。ありがとうございました。